ある時、村の老婆たちが寄り集い、善光寺参りへ出かけた。
皆々、道中、談笑を混じえ、ワイワイと騒ぎながら、宴会気分で善光寺を目指した。
そして善光寺本堂の前で拝礼して帰ろうとしたとき、メンバーの1人が突如、犬になって本堂の縁の下へ入り込んでしまった。
他の老婆たちは驚いて腰をぬかしてしまったが、数人の老婆たちは正気を取り戻して、縁の下へ入って行った。
ところが犬になった老婆は見当たらない。
いよいよバチが当たったのかと騒ぎ出した老婆たちは、悄然として帰路に着いた。
それからしばらく無言で歩いていると、何やら自分たちを追いかけてくる人の足音が聞こえる。
慌てて振り向くと、なんとぉぅ!犬になった老婆が人の姿に戻って自分たちめがけて駆けつけて来たのだった。
皆々、長年、掘削してようやく掘り当てた温泉のごとくに沸き立つ涙を抑えきれずに喜んだのだったが‥‥、どうやら老婆の様子がおかしい。
人の姿に戻ったもののニヤニヤと半笑いをカマすだけで、一向に言葉を発しない。
一同は不思議に思って色んな話を投げかけたが、老婆はただただ、ニヤけるのみで言葉を返す様子は見せなかった。
‥‥‥という奇譚が古来、善光寺に伝わる。
これは善光寺に礼拝するための心構えを示したような故事になるのだろうか。
なんにせよ、善光寺にはこのような奇譚が数多く伝わる。